二重振り子投法は消耗する
野球選手の投手であれば、誰もが剛速球を投げることに憧れます。
確かに、好打者に真っ向勝負をしかけているようなイメージがあるのでかっこよく見えます。
しかし、そんなに剛速球を投げられる投手がそんなに偉いのでしょうか。
メジャーリーグで活躍中の上原投手は平均球速が141km/hで空振り率14.2%というダルビッシュ投手の2倍以上の成績を残していたりします。
松井選手との海外での初対決の時は、初球からフォークボールを投げたという逸話さえあります。
剛速球を投げたいがために、様々なスピードボールを投げるための投球フォームが開発されたりしています。
そんな中で、一昔前に流行った投法フォームがあります。
それは
二重振り子投法
というものです。
どのような投法かと言うと、紐をつけたボールの紐を持ち、グルグル回している最中に、その紐のどこかに指をぶつけると、回転の孤が小さくなり加速するという原理を応用した投法です。
投球動作で説明しましょう。
投手が足を上げてステップに移行します。
「コッキングアップ期」から「アクセレレーション期」に移行する時にステップが入ります。
ここまでに出来るだけ加速をさせて、ステップした際の足でその加速を一気に止め、投球する腕を前に加速させ前に振り出すような投げ方です。
なんとなくスピードボールが投げられそうな気がしますね。
しかし、実は投球フォームに流行り廃りなどというものが本来はあってはいけないことです。
人それぞれの体にあったフォームが存在し、みんなが流行りのフォームで投げてもスピードボールが投げられるとは限りません。
とはいえ、速いボールが投げられるかどうかはここでは問題ではありません。
「二重振り子投法」を実現すると、投球する腕は急激な加速を強いられることになります。
さらにはステップした足はつっぱる役目になるため振った腕の減速には貢献しません。
本来、足はクッションとしての役割をとなり、腕や肩の負担を減らします(『野球肩への対策はパフォーマンスを高める! ~「肩関節」のケアには「下半身」を緩めること~』)。
その足が腕の減速に貢献しないと、肩の後ろ側や背中で腕の減速を強いられます。
さて、この状態を繰り返すとどうなってしまうでしょうか。
簡単に想像がつくと思いますが、
投球する側の肩甲骨面の筋肉である「棘下(きょくか)筋」が大ダメージを受ける
ことになります。
そしてある日、「肩甲骨面」がボッコリ凹んでしまうことが発生します。
これは左右で比べれば明らか分かるレベルで凹みます。
これが、「二重振り子投法」最大の弊害です。
剛速球を投げられる投手がそんなに偉いのか
(投げられるとは限らない)剛速球と引き換えに故障・怪我のリスクを高め続けます。
確かに短期的な投球や、少い投球数であれば大丈夫なのかもしれません。
しかし、投げ込みや、先発完投型の投手などは「肩」をすぐに痛めてしまうでしょう。
投手の腕というのは、1秒もかからずに「加速・減速・停止」という動作を行います。
そのため、怪我・故障のリスクを回避する基本的な考え方は、
できるだけ多くの筋肉を関与させることで各部への負担を分散させること
が大切です。
今回は「二重振り子投法」を例に解説しましたが、その他の投法でも同じことが言えます。
投手がもっとも大切なことは、剛速球を投げることではないはずです。
結果的に球速が上がっているのがベストな形です。
投手にもっとも必要なことは、試合に勝つための流れをつくることです。
球速が遅かろうが、試合に勝ち続けなければなりません。
勝つための最大の要因は剛速球ではないはずです。
指導者も本質を見ない人であれば、球が早くなくては活躍の場すら与えてもらえない可能性があります。
皆が剛速球ばかりに目がとらわれずに、投手の本来の役割を考え直した方がいいでしょうね。