投手が肩関節を大切にすべき本当の理由
肩関節は、人間の身体の中でも圧倒的に可動域が広い関節です。
可動域が広いということは「不安定」な関節ということも意味しています。
肩関節は不安定な関節であるからこそ複雑な投球動作ができています(『野球肩を治療する前に肩関節が不安定であるから安定を生むことを理解せよ』)。
そんな不安定な関節を人間の身体が放置しているわけではなく、不安定な中でも安定感を生み出すためにインナーマッスルが存在しています。
さらに肩関節の内部まで掘り下げていくと、関節には必ず骨同士の接点があり、硬い骨の先端には関節軟骨という比較的柔らかく「滑る」ことに特化した機能をもつ骨が存在しています。
機械工学的に言えば、摩擦係数が低くなればなるほど、物体と物体の表面がツルツルすべると考えられていますが、実は違います。
現実では細かな凹凸がなければ、よく滑りません。
そのため、肩関節にある「関節軟骨」も、軟骨表面には凹凸があり、この凹凸に関節のグリスの役目をする「滑液(かつえき)」が染み込んでいます。
そしてその滑液の放出具合により、身体は関節の「滑り」を調整しています。
ちなみに、関節軟骨同士の摩擦係数は「氷」と「鉄板」の摩擦係数の約1/20ほどだそうです。
つまり、スケートの靴よりも20倍以上も滑りやすい構造になっています。
では、そんなにも滑りやすい関節がなぜ故障をしてしまうのでしょうか。
それほどまでに「投げる」という行為が身体に過酷を強いる動作であることも一つですが、それ以上に野球選手の関節の使い方に問題があります。
頻度や量以上に、問題は「使い方」であることが大半です。
関節の使い方を誤ってしまうと、簡単に滑液などに炎症物質が流れ込んでくるため、摩擦係数が一気に8倍や10倍と高くなってしまいます。
簡単に言えば、滑りにくくなるということです。
滑りにくくなった関節をたくさん動かせば、どんなことになるのかは誰にでも分かりますね。
簡単に言えば故障してしまいます。
滑りにくくなった関節を動かし続ければ、関節軟骨の表面は摩擦が高まり、負担が大きくなり、表面に変化が起きます。
これが変形性関節症の始まりです。
ここまでくれば投げることさえ容易ではないでしょう。
ここに記された内容を理解できれば、野球肩になった時に手術をしたところで根本的な解決になっていないことに気づくでしょう(『野球肩の本質~野球肩の痛みと原因・治療法について【1】』)。
大切なことは、なぜ滑液が適切に出なくなったのか考えることです。
なぜ周囲の筋肉が硬化してしまうようになったのか考えることです。